温度応答性棒状高分子の分子動力学シミュレーション
冷やすと溶けて温めると沈殿する温度応答性高分子
高分子は、多数の原子団が鎖状に結合した巨大分子で、天然高分子としてはペプチド鎖や核酸がよく知られており、また合成高分子としてはプラスチック製品等の原料として様々な高分子が開発されています。
温度応答性高分子と称される一群の高分子は、小分子とは異なる面白い性質をもつことが知られています。日常感覚では、溶けにくい物質を溶かす際には溶液を温めるのが普通だと思います。ところが温度応答性高分子の水溶液は、高分子が低温で溶解し、高温で不溶化する日常感覚とは逆の変な?現象が起こります。(図1)。このような温度応答性高分子は機能性材料への応用が期待されており、特に体温付近で不溶化が起きる温度応答性高分子は、薬物を体内で徐放する薬物送達システムへの応用が期待されています。

温度応答性高分子が示す高温での不溶化現象は何故起きるのでしょう?熱応答性高分子は水に溶けやすい親水性部位と水に溶けにくい疎水性部位を持つ両親媒性高分子です。低温においては親水性部位が水和し、高分子鎖はのびのびと拡がった構造(コイル構造と呼びます)となっています。高温では、熱エネルギーにより親水部位と水分子間の水素結合が切断され、高分子鎖が凝縮した構造(グロビュール構造と呼びます)へ変化します。グロビュール構造では高分子表面が疎水化するために、高分子同士が疎水性相互作用により凝集して沈殿する・・・というのが、従来考えられてきた不溶化現象を説明するモデルです。しかしながら最近になって、コイル・グロビュール構造変化を起こしえない、剛直な鎖構造を持つ高分子(棒状(ロッド型)高分子と呼びます)においても、温度応答性を示す高分子が発見されました。(Poly. Chem. 3, 2014, 1057-1062) 不溶化の際に分子レベルで起きている変化について実験的に直接観測することは難しいので、我々は計算機シミュレーションによる研究をおこなっています。例えば、温度応答性ロッド型高分子の不溶化メカニズムを探るために、ロッド型高分子の二量体についての全原子分子動力学シミュレーション(図2)を行ったりしています。ロッド型高分子だけでなく、環状や星型のような特殊構造をもつ温度応答性高分子についても研究を進めており、従来提唱されてきたコイル・グロビュール構造転移モデルでは説明しきれない不溶化のメカニズムの追及を進めていきます。