研究テーマ概要

環状両親媒性ブロック共重合体:ミセル・ベシクルの構築

 自己組織化は、分子レベルの精度を有する機能的ナノ構造を構築するための非常に有効プロセスであり、両親媒性ブロック共重合体から作られるミセルならびにベシクルは、幅広い用途の可能性をもつ典型的な例です。当研究室では、ポリ(n-ブチルアクリレート)(PBA)セグメントとポリ(エチレンオキシド)(PEO)セグメントを持つ一連の両親媒性直鎖状ブロック共重合体、およびそれを環状化した高分子を作製し、自己組織化によってミセルを形成しました(図1)。その物性を調査したところ、自己組織化によるトポロジー効果の増幅が起こり、直鎖状高分子のミセルに対して環状高分子のミセルの安定性が顕著に向上しました。つまり、ミセルの構造崩壊温度を表す曇点の測定では、直鎖状高分子ミセルは24~27 °Cで懸濁することが観察されたのに対し,環状高分子ミセルは71~74 °Cの高温まで安定でした。従って、高分子のトポロジーの直鎖状から環状への変形により、化学構造と分子量が不変であるにもからわらず、ミセルの熱的安定性の大幅な改善がもたらされました。さらに、様々な組成で環状高分子と直鎖状高分子を混合するだけで作製した一連のミセルの曇点の系統的な調整も達成しました(図2)。
[Honda, S.; *Yamamoto, T.; *Tezuka, Y. Topology-Directed Control on Thermal Stability: Micelles Formed from Linear and Cyclized Amphiphilic Block Copolymers, J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 10251-10253. Nature誌にハイライトとして掲載]
[*Yamamoto, T.; Inoue, K.; Tezuka, Y. Hydrogel Formation by the 'Topological Conversion' of Cyclic PLA-PEO Block Copolymers, Polym. J. 2016, 48, 391-398.]



図 1


図 2

 また、直線状高分子ミセルに比べて環状高分子ミセルの高い安定性のメカニズムについて、溶液状態でのX線構造解析によって明らかにしました(図3)。特に、疎水性PBAコアの密度は、直鎖状高分子ミセル(0.93~1.08 g/cm3)に比べて環状高分子ミセルでは著しく高い(d = 1.06~1.23 g/cm3)ことが明らかになりました。この値はバルクのPBAの密度(d = 1.08 g/cm3)と同程度以上であり、これは環状高分子が鎖の末端を持たないため自由体積が最小化されたことによるものです。
[Heo, K.; Kim, Y. Y.; Kitazawa, Y.; Kim, M.; Jin, K. S.; *Yamamoto, T.; *Ree, M. Structural Characteristics of Amphiphilic Cyclic and Linear Block Copolymer Micelles in Aqueous Solutions, ACS Macro Lett. 2014, 3, 233-239. ACS Macro Letters誌の表紙として採用]



図 3

 ポリスチレン(PS)およびポリエチレンオキシド(PEO)セグメントから成る直鎖状高分子および環状高分子の自己組織化により二分子膜が球状に閉じた中空構造であるベシクルが形成され、透過型電子顕微鏡(TEM)、動的光散乱(DLS)、および静的光散乱(SLS)によって特性を明らかにされました(図4)。注目すべきこととして、直鎖状高分子ベシクル(1、5、および10 wt%のNaClの存在下にて曇点は69、59、および48 ℃)は、環状高分子のベシクル(それぞれ1、5、および10 wt%のNaClの存在下にて曇点は62、52、および43 ℃)に比べて若干熱的安定性が高いことが明らかにされました。熱的安定性のこの傾向は、直感に反してミセルの場合とは反対の結果になりました。さらに、ベシクルの曇点は、ミセルの場合と同様に直鎖状高分子と環状高分子の比率によって制御可能でした。
[Baba, E.; Yatsunami, T.; Tezuka, Y.; *Yamamoto, T. Formation and Properties of Vesicles from Cyclic Amphiphilic PS-PEO Block Copolymers, Langmuir 2016, 32, 10344-10349.]



図 4